たぶんアンタは、何気なく言っただけなんだろうね。きっと覚えてなんかいない。
でも、私にとっては、すごくすごく大きな意味を持った出来事だったんだよ、向日?



自分で言うのも何だけど。私は比較的真面目な方だと思う。・・・・・・と言うか、私からすれば、私が普通なんだ。
だって、宿題はやってくるものでしょう?それでも、忘れたり、やってこなかったりする人って案外多い。やる気がないわけじゃなく、うっかり忘れてた、って人もいるみたいだけど。でも、学生にとって大事な宿題を忘れるかな?そりゃ、誰だって失敗はあるだろうけど、何度も同じミスを繰り返しちゃいけないと思うんだよね。

そういうことを考えて行動していたら、いつの間にか、周りに真面目だとか言われるようになった。まぁ、別に悪いことではないし、嫌ではないけど、ちょっと大げさだとは思うかな。そして、それが時々重く感じるときもある。
真面目だけならまだしも、大抵真面目な人は大体何でもできて、すごく頼りになる。みたいな風に思われるんだよね・・・・・・。たしかに、私だって忍足くんとかはそういうタイプかなー、なんて思ったりもする。だから、気持ちはわかる。気持ちは。
でも!!私としては普通のことをやってるって意識だから、何でもできるなんて完璧な真面目人間ではない。そこまで過剰な期待をされても困る。

・・・・・・と言いながら、頼られたら、つい頑張っちゃうけど。
いや、だってさ!やっぱり私は普通の人だから!!みんなに頼られて「ありがとー!」とか言われたら、当然嬉しくなるじゃない!だから、できる範囲ではあるけれど、ついつい無理をしちゃうんだよね・・・・・・。それで、自分の力になるからいいんだけど。でも、それが本当にできるようになっちゃうと、またみんなに頼ってもらって――の繰り返しだ。

でも、それが嫌ってわけじゃない。ただ、私も普通の人だから。私だって、たまには頼らせてよ・・・・・・!と思うわけ。
だからって、具体的にどんなことで人に頼りたいか?と聞かれたら、答えは特に無い。それに、私だって友達に愚痴を話したりはするわけで、それはある意味頼ってることになると思う。けど、何かこう、もっと自分の弱い部分とかを見せられる相手がいて、精神面がすごく癒されるって言うか、安心できるって思える存在がいてくれたらなぁ〜なんてことを考える。



?どした。なんか、難しい顔してんぞ。」

「わっ、向日!ビックリしたー・・・・・・。」

「それは悪かった。で?何かあったのかよ。」

「いや、別に無いけど。」



向日とは3年間同じクラスだった好で、それなりに仲が良い。だから、せっかく私のことを気にかけてくれたこの機に、自分の気持ちを正直に話してみても良かったかも知れない。
だけど、すぐにそんな風にできたら、今更悩んだりしないって話だ。



「無いことはねぇだろ。些細なことでもいいから、俺に話してみろって。」



ほら、向日はこう言ってくれてる。
・・・・・・でも、やっぱり、自分を変えることは難しい。



「話してみろって言われても、こっちにはそんな自覚ないんだから・・・・・・。」

「なるほど。自覚はねぇのか・・・・・・。じゃ、さっき何考えてたんだ?」

「え?」

「俺に声をかけられる前。何かしらは考えてただろ?」

「まぁ・・・・・・。」

「んじゃ、それ、話してみそ。」



こっちとしては、すごく難しいことだって思ってるのに、向日はえらく簡単に言ってくれる。・・・・・・本当、それができたら苦労しないんだけどね。
でも、何も言わないわけにはいかないと思って、軽くは話しておこうと思った。



「別に嫌だとか、悩んでたわけじゃないのよ?」

「おう。」

「ただ・・・・・・。みんながいろいろと頼ってくれるから、たまに疲れるなって思ってただけ。」

「今も何か頼まれてるのか?」

「今は無いけど、さっきは宿題を教えてほしいって何人かが来たし、その前は委員の仕事をちょっと手伝ってくれって言われたし・・・・・・。そういうのがちょうど終わったときだったから、ちょっと疲れたなって言うか、ちゃんとやり切れたなって思ってただけ。だから、難しい顔って言うより、達成感のある顔だと自分では思ってたんだけど。」



本当に悩んでいないと見せるため、私は少し笑いながらそう言った。でも、向日は真剣な顔をしている。



「でも、実際に俺には難しい顔に見えた。ってことは、やっぱ疲れてんだろ。あんまり無理すんなよ?」

「無理はしてないから、大丈夫。それに、みんなに頼ってもらえるって嬉しいことだから。」

「じゃあ、は?は誰に頼るんだよ?」

「もちろん困ったときは、誰かに頼るつもりだよ。」

「誰か、って?」

「それは・・・・・・そのときに適した人じゃない?例えば、勉強のことなら先生に、とか。」

「それはそうだろうけど、そうじゃなくて。さっきみたいに、ちょっと疲れたなって思ったとき、誰かに頼って、話を聞いてもらえばいいだろ?」

「別にそこまで疲れてるわけじゃないから。」

「そうやって溜め込むと、いつか爆発するぜ?そうなる前に、誰かに話しとかねぇと。」

「ハハ、ありがとう。心配してくれて。」

「笑い事じゃねぇんだけど・・・・・・。まぁ、いいか。笑ってくれたことだし。」



そう言って、やっと向日も笑顔になった。何とか誤魔化しきれた、と思った矢先、笑顔のまま向日は言った。



さえ良ければ、俺がいつでも話聞くぜ。だから、は俺に頼ればいいから。な?」






あのときからだ。向日を意識するようになったのは。とても自然にそう言い残していった姿は、まさに頼れる存在だって思えた。

それから、本当に疲れただとかを話せるようになったかと言うと、そうでもなかった。やっぱり、急には変われないから。でも、他の人に比べれば、向日には自分の弱さを見せられるようになったと思う。

だから、そんな人が自分の彼氏になってくれて、すごく嬉しい。
弱い部分は惚れた相手だから見せられるのか、見せられるから惚れたのか、はわからないけれど。見せられる相手と自分の好きな人、さらには自分のことを好きな人とがイコールで結ばれるなんて、すばらしいことだ。
それなら、向日にも同じように感じてほしい。そう思って、私はまずそのときのことを話した。



「――ってこと、あったじゃない?」

「ん〜・・・・・・忘れた。」



やっぱり・・・・・・。それでも、一応確認する。



「少しも覚えてない?」

「・・・・・・うーん。覚えてねぇな。」

「だと思った。」



でも、今はその話がしたいわけじゃないから、私は笑って流して、本題に入ろうとした。だけど、さらに向日が続けた。・・・・・・別に、言い訳なんかしなくても怒ってないのに。



「当たり前だろ。こっちは意識して言ったわけじゃねぇんだし。今だって、お前にはもっと頼ってほしいって、普通に思ってんだからな。」



・・・・・・。あぁ、もう。どうして。向日はこんなにもカッコイイんだろうか。いや、だからこそ、私も好きなわけだけど。でも、そうやって、予想以上の格好良さを発揮されるから、また私は一段と向日が好きになってしまうんだ。



「それと同じで、私も向日には頼ってほしい、って思ってるの。」

「オイ、それじゃ、さっきの話と矛盾するだろ・・・・・・。」

「なんで?」

「だって、お前は周りに頼られることが多いから俺に頼れよ、って話だろ?それなのに、俺まで頼っちまったら、意味ねぇじゃん。」

「違うよ。じゃあさ、向日は誰からも頼られたい、って思う?」

「いや、さすがに俺もそこまでお人好しじゃねぇよ。」

「私だってそう。向日のことが大事だから。大好きだから。だからこそ、頼られたいって思うんだよ。」

もそう思ってんなら、話は早ぇ。」

「話?」

「おうよ。俺ものことが大事だから、大好きだから頼ってほしい。」

「うん、それはわかったけど・・・・・・。だから、向日も・・・・・・。」

「よ〜し。今後もどんどん頼れ。」

「いや、だから!私の話、聞いてた?!」



なんて勝手な男なんだ。私の話の都合がいい部分だけを聞くとは・・・・・・って、そんな風に考えてるわけがない。本当は、またアンタに惚れ直してたところよ。
それなのに。



「聞いてたって。アレだろ?俺が、お前さえ良ければいつでも話聞くぜ、って言ったやつ。」

「その話もしたけど・・・・・・その後!」

「だーかーら。言ったんだろ、俺は?いつでも話聞く、って。」

「・・・・・・どういうこと?」

「そーゆーことだ。」



笑顔の向日に対して、だから、どういうことよ?!って今回も思ったわけじゃない。きっと、向日はわかってる、って言ってくれたんだろうから。
・・・・・・全く、これ以上惚れさせないでよね。



「もういいわ。私、向日のこと、信じてるから。」

「うわ・・・・・・。それ、反則。」

「何が?」

に信じてるとか言われて、何もしねぇわけにはいかねぇだろ?!」

「お互い様!」



私だって、アンタに言われて頼らないわけにはいかないじゃない。だから、アンタも頼ればいいの!
などと心の中で言い返してみたところで、実際の言い合いになるわけがないし、何より私は向日と喧嘩する気なんて、これっぽっちも無い。それに、たとえ喧嘩したとしても、絶対に仲直りして、むしろ今まで以上に仲良くなってみせようとさえ思う。
それほど、私にとって向日は特別な存在なんだよ。あのときから、ずっと・・・・・・いや、あのときよりも、もっと、ね。













 

私、頼れる男の人が大好きです!しかも、久々の向日夢!!いやぁ、テンションが上がりますね!(笑)その分、なかなかオチが見つかりませんでしたけど・・・。まぁ、いつものことです;;

はい、そんなわけで、今回は頼れる男子を書いてみようと思い、この作品ができました。頼れるキャラは多いと思うのですが、ストレートに「頼ってくれよ!」とでも言ってくれそうなのは、向日さんじゃないかと。
丸井さんとかも、そんなイメージかなぁ〜と、他にもいろいろ浮かびますが、その中でも書きやすい向日さんを選びました(笑)。同い年設定も向日夢では久々だったので、新鮮で楽しかったです!皆様にも少しは楽しんでいただければ幸いです♪

('10/08/19)